これは10世紀頃バリに栄えたワルマデワ王国時代の神話だ。
この頃、王国はマヤデナワ王が政権を握っていた。マヤデナワ王は、非常に残酷な暴君として民(たみ)に恐れられていた。王は無神論者で、民に対して神に祈ることを禁じた。民は、恐怖に怯える生活の中で、隠れながら神に救いを求めた。
このことを知った神は、苦しむ民を救うためにインドラ神を地上につかわせた。マヤデナワ王は、驚くべき超能力を持つ手強い相手だった。インドラ神の攻撃に追いつめられたマヤデナワ王は、その超能力を駆使して己の姿を様々な形に変えて抵抗した。
まず最初に、マヤデナワ王は椰子の葉に身を変えた。その椰子の根が腐っていることを見破ったインドラ神は、椰子の葉に矢を放ちます。しかし、そのとたん、椰子の葉は消えてなくなってしまう。
次に、マヤデナワ王は大きな鳥に変身した。インドラ神は、この鳥を狙って矢を放ちます。これも、たちまちのうちに消え去ってしまった。
マヤデナワ王は山奥に逃れ、毒を含んだ水の出る泉を造ります。インドラ神に従って、兵隊たちはマヤデナワ王を追跡して行きます。途中、兵隊たちは喉が乾き、泉の水を飲んだ。湧き出た水が毒入りだということを知らずに飲んでしまったのです。多くの兵が死んでいった。
それを見たインドラ神は、すぐさま、手にする剣(keris=クリス)で地上を突き刺します。そこからは、兵隊たちを生き返らせるための薬効の泉が沸き出したのです。薬効の泉の水を飲んだ兵隊たちは、みるみるうちに息を吹き返してました。この聖なる泉は、のちにティルタ・ウンプル(Tirta Empil)と名づけられる。
マヤデナワ王は、足跡に化身していた。インドラ神は、マヤデナワ王を深い川の川岸まで追い詰めます。逃げ場を失ったマヤデナワ王は、そこで最期を遂げた。マヤデナワ王の血は、深い川一帯に流れ込みました。この川は、のちにプタヌ(Petanu)川と呼ばれ、今でも、土地の人々の間では、プタヌ川の水を田に引くと良くないと信じられている。この地域は「斜め方向の足跡」の意であるタンパクシリン(Tampaksiring)村と名づけられるようになった。
一方、聖水ティルタ・ウンプルから流れ出た水は、プクリサン(Pekerisan)と名づけらた川の水源となった。プクリサンは、Pe-keris-anでkeris(クリス)にpe-anがついた剣の意味だ。プクリサン川の水は灌漑用水として大変適しているとされ、現在もプクリサン川周辺の水田地帯を潤している。
神を信じないマヤデナワ王に対するインドラ神の勝利は、悪(アダルマ)に対する善(ダルマ)の勝利として記念され、やがてそれは、ガルンガンの祭礼日と呼ばれるようになった。