バリ人は、おしなべて手先が器用だ。供物などは、そのよい例だろう。インドネシア各地に供物の習慣はあるが、バリの供物は特別緻密にできているように思う。
彼らは。椰子の葉や竹などのさまざまな自然素材をうまく利用して、持ち前の絶妙なセンスで、美しい飾り物をこしらえていく。
わたしは、門の左右に飾られたアーチ(写真:A)が気にかかった。きっとあなたも、どこがで見かけたことがあるでしょう。これが飾られている場所では、祭事や催しが行われている。

A:プルンクガン
この飾りはバリ独特のもので、一般的にはプルンクガン(地域によってはジャヌール=janur)と呼ばれている。寺院など、お祈りするところで飾られるものはクラメアン(keramean)と名称が変わる。宗教儀礼と関係のない催しの場合はインドネシア語のデコラシ(dekorasi)と言う。
たとえばあなたが、バリ人の結婚儀礼に招待されたとしよう。あいにくあなたは、その友人の家がどこにあるのか詳しくは知らない。バリ人の家の門構えは、伝統的な建築でどこも似ている。また、ほとんどの家は表札が出ていないので、見分けがつかない。村によっては門の形、色、素材まで統一されていて、まったくわからない。
どこそこのバンジャールのこのあたりだ、というのははわかった。では、あとはどうするか。あとは、このプルンクガンが門に飾ってある家を探せばよいのだ。プルンクガンは、立派な目印にもなる。
ここで、ひとつ注意を。結婚式は、バリのカレンダーにそった吉日を選ぶ。同じ日に、近所で結婚式が重なることもある。受付で祝儀を渡してから気がついても、あとの祭り。くれぐれも、受付で名前を確認してから訪ねること。
プルンクガンは、いろいろな場所で見かけるが、一見しただけでは、どんな材料でどんな作り方をするのかわからない。まじまじと観察して、植物から作られているということはだけが、やっとわかる。
友人グスティ・コンピアンの結婚式が近々にあるというのを聞いて、挙式に先立ってお祝いを述べに彼の家を訪れた。儀式を間近に控え、コンピアン家は準備に忙しい村人でごった返していた。そこでは、プルンクガンの制作中であった。好運にも、制作行程を一部始終見学することができ、なおかつ、手伝いに参加することもできた。きっと、手伝いという邪魔をしただけだと思うが。
供物作りは女性の仕事だが、ペンジョールやプルンクガンなどの大きな飾りものは、男たちの専門のようだ。プルンクガンの細工も、供物と同様に、かなり考え抜かれた技巧で作られる。
まず材料は、蒸留酒トゥアック(tuak)を作るジャコー椰子の若葉・アンブー(ambu)と呼ばれる部分を使う。写真:Bでわかるように、アンブーは葉が開く前の若葉が一つになっている未熟な状態をさす。若葉はよくしなり、曲線を作りやすく、色はすがすがしい薄黄緑だ。

B:アンブー
すでに切り取られて横たわっているアンブーを見たことはあるが、木になっているところは、まだ見たことがない。どうしても見てみたいとコンピアンに聞くと「ジャコー椰子を見れば、簡単にわかるさ」と冷たいひとこと。
若葉なら若いジャコー椰子を見つければいいだろうと、わたしは、ジャコー椰子林を見るたびに、未成熟なジャコー椰子を捜すのだが、未成熟でも立派に椰子の形をしていて、アンブーはない。それなら成長したジャコー椰子を見てみようと、眼をこらして見続けてもいっこうに見つからない。
ウブドはもちろんウブド近郊には、ジャコー椰子は少なく、ジャコー椰子を見るには遠くへ足を伸ばさなくてはいけない。
そうして、100本近くのジャコー椰子を見上げて、ついに見つけた。
ジャコー椰子の先っちょに、アンテナのような細い棒が1本真っすぐに上にのびている。これがあのアンブーだ。棒のように見えるのは、まだ葉が開いていない状態だからだ。葉が開いてしまってからでは、プルンクガンを作ることはできない。
若葉の新芽は、1本の木に1本づつしか育たない。どれくらいの期間で、新芽・アンブーが出てくるかわ知らないが、時期を逸すれば、すでに開いてしまって見つけられないだろう。と言って、葉が形作られていない新芽でも駄目だ。外見は1本の枝のようだが、内はすでに葉が形作られていなくてはいけない。そんなアンブーを捜すのは、たいへんだろう。この貴重なアンブーから、プルンクガンと呼ばれる飾り物は作られるのだ。
ちなみにココ椰子もこんなふうに若葉が出てくる。ココ椰子のそれは、バリではブスンと呼び、各種のお供え物の材料になる。
ガルンガン祭礼日に、2本のペンジョールが門の左右に立っている家を見たことはまりませんか。ひとつはガルンガンのためのペンジョールで、あとひとつは、ガルンガン祭礼日以前に結婚の儀礼があったことを神々に報告するためのペンジョールです。
こんなことを知っていると、村を散策していてプルンクガンや2本のペンジョールを見て「そうか、この家では、最近、家族の誰かが結婚したのだ」と、バリの慣習に興味もふくらむことでしょう。
では、プルンクガンの作り方を順を追って説明しよう。

C:背中を残すように2つに裂く。

D:寝ている葉を起こしながら、葉の背中についている堅い芯をナイフで切り落とす。この時、慎重に作業をしないと葉を切り落としてしまう。この行程を手伝い、かなり緊張したが失敗なく終わった。切り落とされた芯は、ひとまとめにしてほうきにする。

E:最後まで葉を開いたところで所要時間30分。

F:曲げやすいように堅い芯を薄くする。

G:飾りつけたところ。これをプルンクガンと呼ぶ。

H:ナイフさばきも鮮やかに、こんなふうにカットされたものはオンチョール(oncer)と呼ぶ。ほかにもいろいろなカットがあり、それぞれ名称が違う。

I:ココ椰子の若葉で作られた、グルン・グルンガン(gelung gelungan)と呼ばれる輪のような飾り物をつけたプルンクガン。