プラ(Pura=寺院)



 バリ人が信仰するヒンドゥー教の儀礼や祈りをするための場所を、Pura(=プラ。バリ人はプロと発音する)と言う。プラは、神々を祀った施設で日本の神社に近いのだが、英語で「temple」と訳すため、日本語でも「寺院」と言うのが通例となっている。
 他の宗教では、教会やモスクのように礼拝するための場所は屋根付きの建物であったりするが、バリの寺院にはそういったものはない。人々は露天のスペースでお祈りをする。しばしばお祈りは、雨の中だったり、暑い陽射しの下だったりする。
 寺院は普段、門が閉じられてひっそりとしている。神々は、常に寺院に祀られているわけではなく、寺院祭礼(オダラン)にのみ天界から寺院に降臨するとされている。その時のために、寺院には神の座所となる祠や祭壇が建っている。
 充分に塀の整っていない寺院を見るにつけ、バリの宗教は建物より、お祈りの空間が重要なのではないかと感じさせられる。ヒンドゥー教の宗教観は、天界、人間界、地界の三界に別れていると言われる。天界、地界とをダイレクトに交感するためには、屋根があってはいけないのだろう。
 プラには、住職や神主といった意味の司祭はいない。オダランは、プマンク(村人から選ばれた、その寺院専属の僧侶)とブラフナ階層の高僧プダンダによって執り行われる。プマンク、プダンダは、代々、ひとつの家系で受け継がれることが多い。
 ヒンドゥー教が渡来したのが4世紀頃だと言われる。そのころの信仰の場は、神の座所となる石だけだったかもしれない。本格的なヒンドゥー寺院の建立は、8世紀初めに渡来した高僧ルシ・マルカンディアの時代からだろう。寺院が現代のような種類と形態となるのには、永い年月がかかったと思われる。
 寺院にはシワ(Siwa)神、ウシュヌ神(Wisnu)、ブラフマ神(Brahama)の三神やサラスワティ(Saraswati)などのヒンドゥー神が祀られている。さらにバロン(Barong)やランダ(Rangda)などの御神体。小寺院では、祖霊「神」ブタロ・ブタリ(Betara-Betari)が祀られている。
 バリのヒンドゥー教(ヒンドゥー・ダルモ)の教義では、ヒンドゥー教の神はただひとつで、それは唯一至高の神イダ・サン・ヤン・ウィディ・ワソ(Ida Sang Hyang widhi Wasa)であるとされている。バリの存在するさまざまな神々は、イダ・サン・ヤン・ウィディ・ワソが現れたかりそめの姿に過ぎないという考え方だ。
 これは、バリの信仰を、国家に公認してもらうために体裁であった。その後この体裁は、パリサドと呼ばれる組織によって絶対なものになっていく。パリサドの説明はアパ?から発売されている、吉田竹也著「バリ宗教ハンドブック」、もしくは 風媒社から発売されている、同じく吉田竹也著「バリ宗教と人類学」を参照してください。
 それでは、現在の寺院の形態を説明しよう。
 寺院は、聖なる方角である山側を背にして建てられている。
 寺院は塀に囲まれた敷地に、ジャボ(外庭)、ジャボ・トゥンガー(中庭)、ジェロアン(奥庭)3つに仕切られている。奥に行くほど神聖な空間となる。オダランの際、寺院前の路上がジャボになる場合もある。この場合は、竹塀で囲いがされる。
 寺院の第1の門は割れ門(Candi bentar)と言われ、入ってすぐの境内はジャボと呼ばれる外庭だ。門を入ったすぐのところに、アリンアリン(Aling-Aling)という背の低い壁がある。これは悪しきものの侵入を阻止するためのものだ。悪しきものは真っ直ぐにしか進めないといわれている。
 ジャボにはクルクル(Kulkul) の塔、調理場、米蔵などの簡単な建物がある。闘鶏場は外庭か、さらにその外にある。
 ジャボないしジャボ・トゥンガーには、演劇やガムラン演奏のための建物(バレ・ゴン=Bale gong)や供物を安置するための壁のない建物がいくつかある。オダランの際の世俗的な演目は、バレ・ゴンで演じられる。
 第2の門は、屋根付きの門(Candi kurung)。寺院によっては門にボモ(Bhoma)と呼ばれる、寺院を悪しきものから保護する地界の神(魔)の彫刻がある。境内はジェロアンと呼ばれる奥庭だ。ジェロアンには、メルー(meru)と呼ばれる多重層の屋根のある塔や祭壇、祠が並んでいる。
 それでは、寺院の種類をあげてみよう。
1)親族集団の寺院
  パンティ寺院(Pura Panti)
  ダディオ寺院(Pura Dadia)
  パンデ寺院(Pura Pande)=鍛冶屋の集団
2)地域を越えた次元の寺院や、王国ゆかりの寺院
  例:ブサキ寺院( Pura Besaki)
    バトゥール寺院(Pura Batur)
    ティルタ・ウンプル寺院(Tirta Empul)など
3)慣習村の寺院
  デサ寺院 (Pura Desa)=ブラフマー(創造神)を祀る村の繁栄を司る寺院
  プセ寺院 (Pura Puseh)=ウィシュヌ(守護神)を祀る村の起源寺
  ダラム 寺院(Pura Dalem)=シワ(破壊神)を祀る死者のための寺院
  以上の3つは、ブラフマー、ウィシュヌ、シバのヒンドゥー三大神(三神一体=トリムルティ)を祀るカヤンガン・ティガ(Kahyangan Tiga)呼ばれる寺院だ。
海の寺院(Pura Segara)
  丘の寺院(Pura Bukit)
  バンジャールの寺院 (Pura Banjar)
  市場の寺院(Pura Melanting)
  スバックの寺院(Pura Subak)
4)屋敷寺(家寺)
  屋敷寺はプラとは呼ばれず、カーストによって名称が違う。
  サンガ(Sanggah)=スドラ・カースト
  ムラジャン(Merajen)=トリワンサ・カースト(サトリア、ウェシャ、ブラフマナ)  いやはや実にたくさんの寺院がある。
 最後に、寺院見学について説明しよう。
 大きな寺院以外、ほとんどの寺院は門が閉ざされていて、普段は入ることができないと考えて良いだろう。もし、入ることが許される機会に恵まれたら、貴方は最低限のマナーとしてカマン(腰布)とスレンダン(ヒモ)をしなければならない。入場可能な寺院では、入口でカマンとスレンダンが有料で貸し出されていることがある。
 また、オダランに参加する場合は、正装して出掛けるのがベストだろう。バリ人は、外国人が自分たちの宗教を理解しようとしている姿を見るのが好きだ。われわれツーリストの心がけひとつで、素晴らしいバリ体験できるはずだ。



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