精霊ロ・ハルス(roh halus)



 バリ人の信仰するヒンドゥー教には、月、火、水、木、金属、大地、そして太陽に対する自然信仰や精霊信仰、祖霊信仰などのアミニズムが含まれている。
 バリのいたるところに、さまざまな霊たちが息づいているというわけだ。
 たとえば、道の交わるところ、渓谷、窪地などといったところには霊がはびこっている。そんなことから彼らは、こんなところを車で通り過ぎる時には軽く1、2度警笛を鳴らすか「失礼します」と心でつぶやくようにしている。
 また深夜0時から2時までは、悪霊たちの徘徊する時間帯だ。胴体がなく顔の横から直接2本の手が出ているらしい悪霊は、地上1メートル以内のところを彷徨って悪戯をする相手を探し廻っている。
 深夜宿に帰えると、膝の下に何かに噛まれた痕があるのを見つけたことはないだろうか。そんなことがあったとしたら、それはこの悪霊の仕業だ。
 時として、ロ・ハルスと呼ばれる精霊が注意を引くために悪戯をすることもあるという。たとえば・・・。
 あるレストランで、レジの小銭がなくなる事件が続いた。あるレストランとは、旧・「居酒屋・影武者」のことなんですがね。
 スタッフから、自分でないことを証明するためにバリアンに占ってもらいたいと提案し、さっそく高名なバリアンに相談することにした。
 バリアンは、1枚の紙切れに、知らないはずの店内やまわりにあるホテルや川の略図を描きながら・・・「それは、ロ・ハルスだ」と断言した。
 てっきり、誰かの名前かそれらしい人物の風体を透視するかと思っていたら、なんと小銭を盗んだのは精霊だった。バリアンのいうことを100%信じるバリ・ヒンドゥー教徒でない外国人には考えられない回答だが、これなら人を疑うこともなく、いい解決方法かもしれない。
 このレストランに現れるロ・ハルスは女性の姿をしていて、長い髪を頭の上で束ね腰にカマンを巻いただけの上半身裸だそうだ。美人がどうかは教えてくれはなかったが、よく、3つ目のテーブルに座って店を見守っているそうだ。
 3つ目のテーブルには、こんな話がある。
 チベットで瞑想修行した帰りにウブドに立ち寄った日本人が、このテーブルに座り「この席にはパワーがある。素晴らしい気が流れている」といっていた。はかにも霊感の強い数人の旅行者が、この席にパワーを感じている。また、点けたはずの灯油ランプが、よく消えたりとなにかと不思議なテーブルだったそうだ。
 このロ・ハルスは昔からこの土地にいて、レストランの建ったところが通り道だったらしく、最近の建築ラッシュのおかげで通り道が狭くなり困り果て、注意を促すために悪戯をしたという。
 「このまま特別な供物を供えずにいると、店はばらばらになってしまう。ここが、ロ・ハルスの通り道だ」
 バリアンは倒産をほのめかし、供物を供える位置を略図に示した。
   霊と人間の共存共栄? まさか、そんなことが・・・。
 しかし供物を供えるようになってから小銭がなくならなくなったのは確かだという。
 バリに長く滞在していると、こんな眼に見えないものの存在も信じざるを得なくなる。
 ちなみに、いつも供物の供えてあった3つ目のテーブルは、「影武者」の新店舗に設置されてありますが、もうここには、ロ・ハルスが座っていることはないでしょう。



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