これは、世間にあまり知れていない、ウブドにかかわる人々の可笑しくもあり悲しくもある変わった話の数々を綴ったものです。
ここに書く話は、ウソかホントか、判断は皆さんにおまかせしたい。
1990年某月某日の朝、一匹の犬が[猿の森]へ続く道を歩いていた。[猿の森(モンキーフォレスト)]は野生の猿がたくさん棲んでいるところから、ツーリストが付けた名称だ。
犬は、のんびりとした足取りで[猿の森]の前に近づいていく。昔から世界中どこでも、犬と猿は仲が悪いと相場は決まっているが、ここウブドでは、動物たちは共存している。幾度となく通っている道で、いつも何の問題も起こらない。
そこへ一匹の成年猿が、大樹から飛び下りて来た。成年猿は「ここはわれわれ猿の縄張り、犬どもを通すわけにはいかない」と言ったがどうかはわからないが、とにかく通せんぼをしたのだ。彼女にでも振られたのか、成年猿は、よほど虫の居所が悪かったのだろう。
犬は「通せ」、成年猿は「通さない」と言い争いとなり、あげくの果ては取っ組み合いの喧嘩となった。騒ぎを聞きつけて猿の一団が現れ、犬は取り囲まれてしまった。
犬は、尻尾を巻いて逃げるのはシャクだが、多勢に無勢、ここはひとまず引き下がろうと、一目散にその場を逃げ去った。
村へ帰って犬は、その話をボスに告げた。それを聞いた犬のボスは多いに立腹し「それは許せない。犬族のプライドを傷つけやがって。戦闘だ」と言ったがどうかわからないが、とにかく戦うということになり、仲間に招集をかけた。
ここからが友人の目撃談。
友人はこの時、パダンテガル村のYの字から歩いて、もうしばらくで[猿の森]に到着するというところだったそうだ。この頃、この道は両側は田んぼで、唯一、クブクの粗末な茶店があっただけだ。パダンテガル村のYの字付近に、レストラン・ベベ・ブンギルが開店したばかりの頃でもある。
友人が歩いて来た方角から、犬の一団が黒い塊が地を這うように向かって来た。その数100匹はいたと言う。[猿の森]の木々には、猿たちが鈴なりにぶら下がって枝を揺すっている。やはり100匹ほどはいたと言う。この数は、どうみても誇張だと思うが。
道路は今のようなアスファルトでなく、土埃の上がる狭い野良道だった。その道を、犬の黒い軍団が整然と並んで歩いていたと言うから、まさに劇画のような話だ。今にも、ドゥドゥドゥと進軍するBGMが聞こえてきそうだ。猿軍は、グレーの塊となって揺れていた。
まもなく、小川を隔てて両軍は対峙した。
梢が陽射しを遮り、昼なお暗い林道で戦は始まった。土煙、水しぶきを上げての凄まじい戦いだったと、友人は当時を思い出しながら興奮気味に語った。犬軍、猿軍、どちらも多勢の怪我人(?)を出して、決着のつかないまま戦いは終わった。
この戦いのあと、[猿の森]に近づく犬はいなくなり、こうしてウブドの犬と猿は仲が悪くなったと友人は言う。友人の名前は、プンゴセカン村に住む、絵描きでガムラン演奏者のカデ君だ。
ムム〜ン。無さそうで有ってもおかしくない話。カデ君の真剣な表情に嘘はないだろう。わたしは、この話を信じることにした。皆さんはどうですか?